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本当は

祖母が口癖のように「本当は」「本当は」と言っていた。私が16才の時だ。その「本当は」が気になるようになった。そばにいた兄も同じことを言った。
「おばあちゃんの本当はの、本当の基準は何か」
そういわれて祖母は黙ってしまった。「本当は」と言う言葉には、自分の基準のみが正しいと言う前提が見え隠れするのだ。祖母の立場から見れば、随分と価値観の、あるいは判断基準の違う、世界に生きていたのだろう。「本当は」はささやかな抵抗であったのだと、今になって思う。
祖母の「本当は」がおかしいと気づいたにもかかわらず、その前の16年間の無意識の積み重ねで、私の中に祖母の「本当は」はいつの間にか価値基準となって定着しているのだと最近気づいた。
些細なことなのだが。たとえば、去年のお正月51年前に亡くなった父の趣味の友人が、突然家に来られた。
お土産などいらないのに、「Bさんこれどうぞ食べてください」と包みを出された。食べ物だ、一緒に食べましょう、と言われたのでふたを開けた。バームクーヘンなのだが、すでに三分の一なくなっている。食べ残しである。祖母の価値基準が「この人はおかしい、まともに相手にしてはいけない」と私に告げる。
祖母の言っていた「本当は」はつまり、祖母の常識と言うものなのだろう。マナーの場合もある。
スープの飲み方、ナイフの取り方、落としたフォークを自分で拾ってはいけないなど。口に物を入れてしゃべってはいけない、ぺちゃくちゃ音を立ててはいけない、など。
階級に根ざしたものもある。お中元にはたとえば塩昆布ならどこそこ、佃煮ならどこそこ、贈り物もたとえば百貨店なら少なくともどこそこ。もちろんレストランも大切な相手なら最低どこそこ、がある。これはしかし、懐具合の関係で、どうにも出来ない場合もある。私などスーパーのお中元を平気で利用している。分相応と言うものもあるのだ。ただ「本当は」もっと「ちゃんとした」ところから送らなければならないと、心ではしっかりと思っている。
言葉遣いもそうだ。私が目をかけている生徒に「がんばって私を踏み台にして未来に羽ばたいてね」と言ったら、その生徒は「先生こそ、私を踏み台にして羽ばたいてください」と返してきた。その言葉遣いはおかしいと、祖母の価値観が言う。考えていったわけではない、悪気などないのだ、と思うのだが「この子はおかしいぞ」と、頭の中で祖母の声が聞こえる。こういうおかしな言葉遣いは頻繁にある。だから私は頻繁に言葉のやり取りではゲンナリするのだ。祖母はTVやRadioのアナウンサーの言葉遣いにまで「本当は」の突込みをいれていた。たいてい祖母の方が正しいのだ。浪花千栄子の船場言葉のアクセントはいつも祖母に「本当は違う」と毎回突っ込まれていた。
呼び方もそうだ。私のことをいとこが「B」と呼び捨てにしたら、祖母は怒っていた。「本当は少なくともBさん、Bちゃんと呼ぶべきで呼び捨てなど勘違いも甚だしい」と言うわけだ。これも私の中で16年の間に定着していて「お前」とか「あんた」とか、名前を知っている人にそう呼ばれると「まともに相手にしてはいけない人」の範疇に放り込みたくなる。お互い尊重しあって付き合おうと思っている人なら、決して相手を「お前」とか「あんた」とかは当然呼ばないはずだ。
祖母の「本当は」の根底には茶道だあるのだと私は思う。そして和装の感性もある。所作に決まりがあったり、季節ごとにトータルな衣替えをしなければならない、コーオーディネイトの決まりもある。「本当は」の詰まった世界だ。だから所作やファッションに対しても知らず知らずに祖母の基準が私の中に染み付いていたりする。
服装に五月蝿くない知り合いがいて、彼女はいつもバザーで、2,3百円の服を買って着ている。それはそれでいいのだが、たまに「あなたにあげる」と言ってバザーで買った服を持ってくる。「本当はそんなことをしてはいけないよ」と言いたいのだが「本当は、の本当の基準はあなたと、私では違うのだ」と言われるような気がして、非常に戸惑う。
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