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Joe (2) Je suis tres heureux de vous voir

「Marie,僕と結婚してくれる?」
Joeは大きな声ではっきりと言った。キタの旭日屋書店の近くにある第一勧銀前の歩道の上でだった。どう返事をしたのか思い出せない。ただ
「えぇっ!Joe、今日は何日?今何時?」と言ったのを鮮明に覚えている。
自分の人生に於いて、とても重要な瞬間に思えた。二人して目の前の阪急百貨店の電光掲示板を仰ぎ見た。なのにそれがどんな時刻を表していたのか、全く覚えていない。
   ・・・・・・・・・
「今度の休みに帰ったら、両親にMarieのことを話すよ。すぐにOKは出ないと思うけど、最終的には絶対説得するから。期待して待ってて」
私はJoeといるだけでとても楽しかったので「結婚」という現実が二人に何をもたらすのか、ほとんど何も想像出来なかった。
立ち止まって考えてみたことがある。Joeは私と結婚して何を得ることが出来るのだろうか。私を得ることが出来る。少なくとも。でもそれだけだ。Joeはそれで充分だと言ってくれた。
「僕はね、他には、本当に何もいらないんだ」
交換日記には二人の未来の家庭のイラストを描いてくれた。
私はひとつだけ確信できることがあった。JoeとMarieは世界最高のカップルだと言うこと。
Joeの身体の中を駆け巡る熱い情熱と、沸騰している血液が、私に夢のような未来をもたらしてくれた。

東京のJoeから電話があった。
「ママがまだ早いって言うんだ。でも心配しないで。Marieは僕を信じてくれればいい。任しといてよ」
帰ってきたJoeに会った。
「ママがね、一緒に住むようになっても、入り口は別々にしますからねって、言うんだよ」
ーまだ学生なんだし、結婚なんて話、止めたほうがいいわー
「でも僕は、僕の気持ちを形にして確実なものにしておきたいんだよ」
ーわかったわ。結婚生活がどんなに辛くても、Joeがいてくれれば、私平気よー
「Marie、なんてことを言うんだ。僕はMarieに辛い思いをさせるつもりなんかないよ。二人で幸せになるために結婚するんだよ。僕はそう思うから、結婚を決めたんだよ」

翌年には、どうしても家族に会わせたいというので、二人で上京した。
「婚約するんだ」とJoeは言った。
ーJoe、私なんだか、マノンレスコーの気分だわ。一人息子を誑かした性悪女って見られたら、どうしようー
「僕が選んだ人を僕の両親がそんな目で見るわけなんかないよ。パパはいつも、日本人は金髪に染めても鼻が低いからダメだって言ってるから、Marieを見たら、パパびっくりするだろうなぁ」

私はJoeに連れられて、頭が空っぽのまま、千駄ヶ谷のJoeの家に行った。お母さんと、お姉さんが現れた。お母さんはとてもあがっていて、話もしどろもどろで、手に持っていた私の模様入りの黄色いBagを、しきりに誉めた。
「パパはね、今、千鳥ヶ淵のフェアモント・ホテルでお仕事中。パパに会ってらっしゃいよ。そしてお天気もいいので、ついでに千鳥ヶ淵でボートに乗ってらっしゃいよ」
私は頭を空っぽにして出かけたけれど、お母さんも、お姉さんも、お父さんも、まるで爆弾に会うような混乱した気持ちで、この日に臨んでおられるのだろう。
美術にも文学にも造詣が深くて、元NHK「百万人の英語」講師の、著作も一杯ある、英文学教授の、長身で美男でダンディーな、吉田正俊氏にこれから会うのだ。どんな感じの自分になればいいのか、私も少し戸惑ってきた。

三人でホテルの喫茶室に座って、Joeがまず私を紹介してくれた。日仏で共にフランス語を学ぶ人と言う一言があったせいか、Joeのパパはチラリと私を見た後、その口からは
「Je suis tres heureux de vous voir」とフランス語が飛び出した。
すると私の人格から、どういうわけか、いきなり本物のマノンレスコーが現れて、
「わぁ、カッコいい!」と言うや、蓮っ葉に無教養に、パチパチと手をたたいたのだった。

////////////////////////////

現代詩手帖の最新号は昨年末に97歳で亡くなった作家Julien Gracqの特集号だ。後年Marcel Proustの世界的研究家になったJoeも、京都大学の卒論はたしかこのJulien Gracqだったと記憶している。
Julien Gracq まずはWikipediaから: Julien Gracq :
これは貴重なJulien Gracqのインタビュー : Julien Gracq Daily Motion :

追記:2008?07?08
現代詩手帖7月号には天沢退二郎氏夫人、マリ林(まりりん)氏がJulien Gracq姉弟との長年にわたる交遊録をJulien Gracq追悼文として書いておられた。それで、思い出した。
Joeがある日こう言ったことがある。
Joe「Marie、僕もね、ペンネイムを考えたんだ。梨木類(なしき・るい)、だよ」
聖杯物語で育ったJoeはJulien Gracqの本名をペンネイムにするほど、Gracq風の世界に傾倒していたのだ。
Joe「僕はMarieの騎士だよ」
Joeは完璧な騎士だった。この世に存在する最高の騎士だった。

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