PLANETEに戻る

Latest Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

天満屋和三郎の妻

天満屋和三郎の妻 2004年5月15日 (Sat) 12:49:08

「Bちゃん、この本分厚いのに安いねえ」
「これね、週刊だし、ほら、触ってみて、紙の質が悪いから」
「それにしても、この大きさで30円なんて」
今日は少し息が楽だ。「少年サンデー」を買ってきてもらって、スポーツマン金太郎を読む。ピッチャーが金太郎でキャッチャーが熊。熊と野球が出来るなんてとても楽しい。

「Bちゃん。漫画読めるんだったら、今お天気もいいし、外に出てみない?・・噂によると職員会議で揉めてるらしいよ」
「今まで、何とか、ほら、ごまかして進級できたから」
「来年もう一回やりますっていってきたけど、今3年だから。来年無いもの」
「じゃ、3年をもう一回する」
「私がカバン持ってあげるから、ちょっと学校へ顔出してみない?」
70歳を過ぎた祖母にカバンを持ってもらい制服を着た。意を決して家を出たものの苦しい。5Mも歩けない。
「ちょっと一服」「うん。そうしましょう」
結局5M歩いては3分ほど休み、5M歩いては5分ほど休み。これじゃなかなか進めない。
「肩で息してるね。ゼーゼー始めたね。どうする。止める?」
「ちょっと休もう」・・呼吸を整える。なんだか果てしなく遠い。記憶の中では学校へ行く道さえ、はっきりわからない。それほど行っていない。

PTAに行った時「これはこれは、Bさんのおばあさまですか。お宅のお孫さんは成績優秀で・・」と、あまり評判のよくない英語の教師によいしょされて、上機嫌で帰ってきた祖母。担任の教師に「君のおばあさん、なんか貫禄あって話すと威圧感を感じる」と言われ「ああ、昔、船場の御寮さんやってたので、人を見るとみんな番頭や丁稚に見えるらしくて。すみません。それにやけにpedanticで困ってます」と私が謝っている事など知らない祖母。ハーハーゼーゼーいって立ち止まってはその祖母と顔を見合わせる。

あれは5歳のときだった。友達と遊んでグッドバイと言って別れ、家の玄関を開けた。祖母が仁王立ちしている。「Bちゃん、今なんて言いましたか?」「何にも」「お友達と別れるとき何て言いましたか」「??・・あっ、グッド・バイ!」・・祖母は悲しい顔をした。「こんな情けない子は私の孫ではない」「・・・」「よその家に帰りなさい」「何怒ってるの?何も言ってないよ」「Bちゃん、Dは口の中に留め置き、大きな音を出さない。DはDOとは違う。Good-bye。言って御覧なさい」「幼稚園でグッド・バイ、グッド・バイ、バーイバイ、ってお歌習ったよ」
  ・・・ ・・・
そう言えば子守唄代わりに一番最初に覚えた歌は全部賛美歌だった。あいうえおの前にABCを教えられた。現住所の前に本籍地を教えられた。「あんたはイトはん。船場のトーハン」B29で何もかも灰になったのに、プライドだけで生きている。?武士はくわねど高楊枝。?Bちゃんは意志薄弱、Bちゃんは傍若無人、Bちゃんは井の中の蛙、Bちゃんは盲蛇に怖じず、Bちゃんは天衣無縫、Bちゃんは、美人薄命かどうかはまだわからないけど。?「はいはい、おばあちゃんには、足元にも及びません」平身低頭。?手ごわい祖母が私にはいた。発音とイントネイションの厳しいチェック。外出時は、服装と表情と姿勢のチェック。長い間完全管理下にいた。?「はい、はひとつでよろしい」

「もう帰ろうか」祖母が言った。今まで来た道を帰るだけの気力が無かった。・・ようやく中学校に到着。階段がうらめしかった。「教室は何階?」「多分3階の左側」登りはさらに苦しい。3段で一休み。ゼーゼー息をして、もう声も出ない。また3段。踊り場で15分ほど休んで・・・。ようやく教室の前に来た。「やっぱりもう帰るか?」祖母の目に哀れみが見えた。私は全力をかき集めた。ここまで来たんだから、今から授業を受ける。それでもドアを開ける前に決心するのに5分程かかった。情けない表情と情けない姿勢でドアを開けるわけにはいかない。元気よく、元気よく。大きく息を吸って、ガラガラガラガラ・・・大きな音で全開した。生徒が皆驚いた顔で一斉にこちらを見る。集中砲火だ。いや集中眼火。気力を込めて一歩踏み込もうとしたら、・・コンキンカンキン、コンキンカンキン・・本日の全授業終了の鐘が鳴った。

卒倒したいところだった。もう、なりふり構わずヨタヨタと教壇に倒れこんで、言った。
「シュ、シュ、シュッシェキ、ゼーゼー、ハーハー、イチニチブン、ゼーゼーハーハー、・・グダジャイーーー!」


今日のお勧めはSerge Lama のJe suis malade.「灰色の途」Dalida がこの歌を歌っているのを見たとき、そこに神経衰弱の女
の顔を見た。あれだけ成功してあれだけ魅力的な女性が、何をそんなに苦しみ、なぜ命を絶ったのか。こんな歌を歌わせて、まるで自殺を教唆するようなものだ。


コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

«  | HOME |  »

2017-08

  • «
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • »

MONTHLY

CATEGORIES

RECENT ENTRIES

RECENT COMMENTS

RECENT TRACKBACKS

APPENDIX

Bruxelles

Bruxelles

FC2ブログへようこそ!

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。